老婦人が店に入ってきた時、タケシはただの質屋だと思っていたこの店が、ただの質屋ではないことに気づいた。彼女が手に持つ指輪と引き換えに「忘れたい記憶を取り去ってほしい」と言ったのだ。
佐藤店主は、慈悲深い目で老婦人を見つめ、静かに頷いた。「わかりました、あなたの願いを叶えましょう。ただし、その代償は…」
老婦人は一瞬躊躇ったが、やがて深く息を吸い込んで、覚悟を決めたように首を縦に振った。「何でもいいわ。その記憶さえなければ…」
店主は優しく微笑みながら、指輪を受け取り、奥の部屋へと消えていった。タケシは戸惑いつつも、この奇妙な交換に興味をそそられた。そして、自分も何かを変えたいという思いが心の奥から湧き上がってきた。
数分後、佐藤店主が戻ってきた。老婦人の表情は一変し、穏やかで、どこか晴れやかだった。彼女は店主に深く感謝し、店を後にした。
タケシは、佐藤に尋ねた。「店主、あの老婦人は本当に記憶を失ったんですか?」
佐藤は微笑んで答えた。「失ったというより、解放されたんだ。人は時に、記憶の重荷に苦しみ、自分自身を見失ってしまう。私たちは、そんな人々の負担を軽くする手助けをするのさ。」
タケシは感心し、同時に深い興味を抱いた。彼はこの「お金屋」で学べることがたくさんあると感じた。そして、自分の中にも変えたい何かがあると気づき始めていた。
その夜、タケシは店を閉める手伝いをしながら、佐藤店主との会話を思い返した。この不思議な店で、彼は自分の人生について、そして人間の価値について、新たな発見をしていくことになるだろう。
そして、タケシは明日への期待を胸に、初めての一日を終えたのだった。